ボヘミアンラプソディ

 

ソロで鑑賞してきました。

 

上映前のCMで、「帰り道冷えたカラダに養命酒を買って帰って下さい!」と、藤井隆が言っていた。

けれど。

 

帰り道、楽器屋でギターの弦を買った。

今すぐ家に帰って弦を張り替えて、ギターをかき鳴らしたい、そんな音楽への衝動を駆り立ててくるような映画だった。

養命酒より全然アツくなれる。

 

実を言うとQUEENに何かを買わされるのは今回が初めてではない。

そもそも中学二年生の時、ギターを始めるきっかけとなったのがQUEENといっても過言ではない。

 

 

 

中学二年生の男子が父親の部屋に侵入してすることといえば、間違いなくエロ本を盗み読みすること。けれども

真面目すぎる僕と、それを育てた父親の部屋ではCDこっそり拝借して盗み聞きという攻防が繰り広げられていた。

 

そんなの堂々と父親に貸してと言えばいいと思うが、中学生男子にとっては今風の音楽を聴いていない=ダサいことであって、それを両親に悟られるのが嫌だった。

 

僕ら中学生はGReeeeNを聴くべきであって、

QUEENではダメなのだ。Eも二個足りてないし。

 

そして盗んだCDの中に、QUEENのアルバムがあった。

この頃すでにThe Beatles、Bee Gees、Monkees、LED Zeppelinなどを盗み聴きして懐メロ洋楽にはどっぷりハマっていた。

それでも、初めてボヘミアンラプソディをイヤホンを通して聴いた時は、未知のジャンルの音楽すぎて延髄にタバスコを垂らされたような鋭いショックを受けた。

 

余談だがこの時以来。ショックを受けた時は僕の頭の中で「ママミアレミゴーーー!!」とボヘミアンラプソディのオペラパートが流れる体質になってしまった。

 

例えば中3のときアダルトサイトのワンクリック詐欺にひっかかって16万円の請求のメールが届いた時も脳内「ママミアレミゴー」状態だった。

流石にその時は、一人で抱え込んでいては「Another one bites the dust(地獄へ道づれ)」になってしまうので、正直にSave Meと言ったほうがいいと思い、フレディばりに「ママァー!」と叫んだ。

 

本題に戻ると、それ以来QUEENの魅力に取り憑かれ、特に幾重にも重ねて録音されたギターソロの音に首ったけでギターを始めたい!と思うようになった。

 

なのでやっぱりQUEENのギタリスト、ブライアンメイと同じ「レッドスペシャル」と呼ばれるギターが欲しかった。

 

(作中では少し触れていたが、ブライアンメイは宇宙工学の博士号を取得しているインテリ。

彼は自宅の暖炉の木材を使って、あのギターを自分でイチから作った。

だからQUEENのギターサウンドは再現不可能。ギターアンプもベーシストで機械工学を学んだジョンディーコンが自作した「ディーキーアンプ」を使っているので尚更オリジナルの音になる)

 

レッドスペシャルのレプリカモデルをインターネットで血眼になって探すも、廉価モデルなど無く、最低でも32万円だった。ワンクリック詐欺請求の2倍の価格もする。

 

流石にそれは中学生には払えないので、お年玉全額かき集めて8万円のギブソンSGを、レッドスペシャルと配色が同じという理由だけで買った。8の倍数よく出てくるな。

 

 

以来、洋楽ロックの曲をコピーしまくるロック小僧への道を進むわけだが、

そんな僕も高校生になり、軽音部に入部を決意。

バリバリに尖ったギブソンSGを背負って、入部説明会に行った僕は、人数合わせの関係でガールズバンドのリズムギター担当になった。

 

 

以来高校生活は、放課後学校の屋上で女子達とaikoチャットモンチーを演奏して、女子達とパルコでワッフルを食べて帰るいちごスペシャルのように甘い青春を過ごした。

若干その影響で性格や仕草が女の子っぽくなった。

まぁ、ある意味QUEENっぽくなったってことで結果オーライ??

 

スモーキンブギ

 

土曜日の夜。

のんびりカフェで過ごすことが最近のマイブームになっている。

家から少し離れたコメダ珈琲で読書でもしながら思考を巡らす作業は自分にとってのビタミンになる。

ユーミン風に言うならば「土曜の夜は、コメダに来るの」って具合だろうか。

あまりオススメはしないが、タバコは吸わないけれど敢えて喫煙席で読書することも多い。

 

読書に疲れると、徐ろにスマホを取り出しマッチングアプリを開く。案の定女の子からいいねは届いていない。

 

「石川県って人少ないし可愛い子いないな」

「そもそも男が月額数千円で女性は無料ってのもおかしいだろ」

 

自分の非モテ具合を地理と運営のせいにしてしまうおぞましさはきっと副流煙の副作用だろう。

 

土曜日の夜。

その日はコメダ珈琲ではなく相席居酒屋とやらに足を運んでみた。

男性が時間に応じた金額を支払い、女性が無料のシステムだ。

僕が案内された席の前には露出度高めの弱冠20歳の女の子がタバコを咥えて待っていた。

こういう子でも出会いを求めているのだろうか。

「はぁ?彼氏?いるに決まってるじゃん。アタシはここにタダでメシ食いに来てるだけだっての」

 

煙まじりの捨て台詞が目に染みる。

女性無料ルールは「百害あって一利なし」で間違いない。

 

土曜日の夜。

そろそろカフェに行きたいなと思っていたのに、先輩に連れられてキャバクラに行った。

「あ、タバコ吸います?」とライターを懐から取り出した気が効く女の子、Nちゃんと共通の趣味で盛り上がり、連絡先を交換した。

 

翌日の昼、僕とNちゃんは焼肉屋にいた。

Nちゃんは凄く性格が良く、

僕とまた会いたいし、その時のためにダイエット頑張ってオシャレな服を買いに行きたいと言ってくれた。

ただ、何故だろう。

昼の明るさで見たキャバ嬢はあんまり可愛くなかった。

 

申し訳なさから焼肉代は全部こちらで負担した。

 

土曜日の夜。

同じ会社の事務所で仕事をしている

50台マダムに誘われて嫌々二人で焼肉に行った。まじでカフェに行かせてくれ。

マダムはバツイチのシングルマザー。

今でも男漁りに余念がない。

最近家に連れ込んだ男と、、など僕の母親と同世代の女性の赤裸々な性事情には思わず耳を塞ぎたくなった。

 

「ははは、、すごいですね。僕なんて出会いないんでそういうのサッパリで、、」

 

と返答したのだが、これに対してマダム。

 

「あなたさっきから出会い無い、出会い無いって愚痴ばっかいってますけどね!出会いなんて高速道路のサービスエリアの喫煙所にだってあるんですよ!!!」

 

なぜかこの時の焼肉代も全部僕が負担した。

 

無言劇

「へえ、お笑いサークルなんだ。なんか面白いことやってよ。」

 

僕は面白くないから、ごめんなさい。その期待には応えられません。

 

「なにそれ、ウチのサークルの先輩の方がオモロイよ。この前飲み会で、ダンソンって踊ってたのマジ笑った。」

 

おっしゃる通り。僕には流行りの芸人のネタをまるまる真似するだけなんて面白すぎて出来ないな。

 

渋谷、道玄坂をそそくさと駆け上る。面白いってなんだろうって考えながら。

 

カランコロンカラン。

 

渋谷の喫茶店ルノアールでアイスコーヒーを注文して僕はある人を待っていた。

 

「お待たせ。じゃあ早速読ませてもらうね。」

「おっ、君はなかなか面白い文章書くね。うちの週刊誌のコーナーで一回エッセイ書いてみてよ」

 

茶店で僕が待っていたのは司馬遼太郎の編集を長年担当していた雑誌編集者。

大学の友人Yの知り合いに当たる。

 

「いやぁ、君がお笑いやってるってY君から聞いてね。ちょうどクスッと笑えるエッセイを雑誌のコーナーで募集してたから頼んでみたんだけど

流石だね。」

 

お笑いやってるって言うと全く知らない人から嫌味を言われることもあれば、全く知らない人の耳に入って良いことにつながる事もある。

 

あれは、良いことだったのかなあ。

 

、、、、

大学2年の秋の話。

「いやぁ、スベったな。ネタの練習足りんかったなぁ。」

 

僕は相方二人とトリオを組んで、早稲田大学で開催された学生のお笑い対決ライブに出演していた。

どんなネタをやったかは忘れたが練習不足が原因で演技が棒になり、対決に敗れたことは覚えている。

 

さぁ、こんな日は打ち上げも行かず帰ろう。

コント衣装を脱いでカーディガンを羽織った瞬間、僕のところに一人の女性が肩で息をしながらやってきた。相当走ったのだろう。 

でも、知らない人だ。

 

「あのっ、ネタ見てました。面白くはなかったですけど演技はすごく良かったです。」

 

ナチュラルに失礼な女性だな。

あと、電波少年の企画で激安商品買いに遠くのスーパーまで自転車を漕いでたオバサン、椿鮒子(つばきふなこ)に似すぎだろ。

 

「申し遅れました、私早稲田大学で演劇の舞台監督してます、Mと申します。あなたのぎこちない演技は小津安二郎映画の世界観を想起させます。私の舞台にぴったりなんです。どうかウチの劇団に入って下さい。」

 

オートマチックに失礼な女性だな。

あと、この人に自転車を装備して通信交換したら椿鮒子に進化するだろ。

 

とは言え、その日スベったまま帰るのは気分も晴れないので、僕は二つ返事で了承した。とりあえずその日はMさんと翌週表参道で会って詳しい話を聞く約束だけした。

 

翌週、表参道の喫茶店でアイスコーヒーを注文して僕はMさんを待っていた。 

ちなみになぜ表参道集合かと言うと

その日、表参道の美容室でカットの予約をしていたからだ。ちなみに読モが行くようなサロンだ。

 

「お待たせしました、あ。今度やる劇の台本がこれです」

 

表参道のカフェ。一番カッコよくキマってる読モヘア状態を最初に見せるのが椿鮒子なのは気分が悪かった。

 

「演じていただくのは魚の演技です。セリフはほとんどありません」

 

小津安二郎に謝れ。

 

 

それから僕は、魚の演技のために在籍する慶應大学を2ヶ月ほど放置し、早稲田大学へと通った。

 

来る日も来る日も、定期券圏外の東西線早稲田駅で降りて、学生会館に通い詰めた。

 

「はい、上半身は動かさずに!片脚あげてスッーっと動く。そしたら反対と脚上げてスッーと。そう!」

 

僕はMさんの求める魚の動きを忠実に演じる。

この動きは得意だ。

なぜなら小学四年生の時原因不明のちんちんの病気で学校を休んだとき、ずっとこの歩き方をしていたからだ。

上品な言い方をすれば、1リットルの涙での沢尻エリカの歩き方だ。

 

Mさんが言う

「いやあ、誘拐犯のコントを見た時から適任だなって思ったんですよ。」

 

あの。すいません。僕そんなコントした覚えがないんですけど。

 

「え、うそ。やだ。間違えてた!キャスティングミスかしら。誘拐犯のコントした人に声かけたつもりだったんですけど」

 

確かに誘拐犯のコントした人は僕のサークルの先輩で、顔がよく似てると言われる人だ。

けれどその先輩は演技が非常に上手なので、呼んだ理由には合致しない。

 

「まあいいや。」

とどこまでも失礼なMさんの劇は

観客から「シュールすぎて意味わからない」とブーイングの嵐を受け幕を閉じた。

 

とはいえ、お笑いをやってて他大学の演劇部で色々経験できたのは良かったな。

 

なんて考えながら最後の早稲田大学を名残り惜しむように戸山公園を歩いていた。早稲田大生が男女で仲良く流行りのリズムゲームで盛り上がっている。楽しそうだなあ。

 

そういえばその早稲田大学の演劇部に、僕の他にもう一人お笑いやりながら演劇をやってる人がいた。

 その人は僕と違ってお笑いではバンバンウケてたし、演劇の世界でも大活躍だった。

 

その人が今のにゃんこスターアンゴラ村長であるのは本当の話。

 

 

 

 

 

キリル文字だらけのインスタグラム

今年の誕生日は仕事の休みを取ってウクライナに旅行することにした。

無類のサッカー好きの友人Tと二人で、チャンピオンズリーグ決勝を観戦するためだ。

とりあえず上司に休みの許可を得なければならない。

 

ウクライナで観たいサッカーの試合があるので有給取ってもいいですか?」

「おー!いいぞ、いいぞ。ただ南米は危ないから気をつけるんだぞ。」

 

良かった。ちゃんと休み貰えた。あと上司の頭に浮かんでいるのは

たぶんベネズエラのことだろう。

 

ウクライナは東ヨーロッパに位置している。

ただ、ウクライナも危険というイメージはあながち間違いではない。

2014年に起きたウクライナ危機やクリミア併合。

実にこの国は紛争のど真ん中で、外務省が出す渡航危険レベルも1〜2という状況。

それでもウクライナに行こうと決断したのは、サッカーの試合が観たかったのも

勿論だが、それ以上に昔からウクライナは「行ってみたい国」だったからだ。

 

どうやら僕は境界線フェチなのかもしれない。

わかりやすい例で言えば国境。その実態のない線を超えただけで景色も言葉も

人々の生活も変わってしまうあの不思議な感覚が好きなのである。

県境も好きだし、テリトリー同士が重なり合うところが何故か好き。

特に川と海がぶつかり合う河口が大好きで、小学生の夏休みは一人で川沿いを

下って「どこから海に変わるのか」その境い目を調べてた。

 

それとウクライナの何が関係あるのか?というと

ウクライナはヨーロッパとロシアの境界線にあたる。

歴史を振り返っても長らくポーランド王国の影響下にあったため、

建築物は西ヨーロッパの影響を色濃く受けている一方で、

旧ソ連時代の名残で無機質で合理主義的なアパートが立ち並ぶ。

 

そんな文化の境界線だからこそ僕のフェチにドンピシャ。

ただそれが今なお出口のない紛争地帯になってしまう理由でもある。

 

さて、そんなウクライナの首都、キエフに来てみると

空港に美女。聖堂に美女。ボルシチ屋に美女。

次から次へと雪も欺く美女がマトリョーシカのように現れる。

「平均レベルが滝沢カレンだな!」 

なんて感想が口から出たが、事実滝沢カレンウクライナハーフらしい。

 

 

ソフィア大聖堂、澄み切った青空を背に緑のモスクが映える。

その大聖堂の入り口、何故か僕と友人Tは美女集団に囲まれていた。

 

「私たち日本大好きなんです!!」

「私たちとインスタで友達になって下さい!!」

 

なにやら日本好きのウクライナ人女性15名ほどの団体に遭遇した。

モデル級の美女にワーキャー言われる経験なんて人生でもう二度と無いはず。

だから記念に写真を撮った。すごく喜んでくれたので調子に乗って

肩をギュッと寄せて写真を撮ったりもした。インスタも全員と友達になった。

 

「お姉さん達、みんな綺麗だね。歳はいくつなの?」

柄にもなくイタリア人みたいな質問をする。

 

「14歳です!私たちクラスメートで修学旅行なんです!!」

 

ウクライナ。西欧とソ連の境界線。

大人と子供の境界線もメチャクチャな国だった。

 

 

 

 

 

サマーダイブマシーンブルース

簾名残の9月上旬。

平成最後の夏が終わると同時に僕の夏も終わった。

というのも某マッチングアプリで知り合った女性に思いを伝え、

 

散った。

 

平日は仕事で断られ、プライベートでも断られる。

人生の折れ線グラフが綺麗に着地したなーと思った。

 

「じゃあこれから上がっていくだけじゃん!」

 「止まない雨は無いよ!」

 

そんな気休めも虚しい豪雨の金沢。

 

そんな時福井県に住んでる会社の同期Aから

「今晩飲もうよ」とラインが届く。

何故だか、その彼からのお誘いがあった時

「今日何かいい事あるかも!」と思わずにはいられなかった。

 

すぐさま僕はマイカーを転がして、金沢から福井へ

8号線を法定速度内で走り抜けた。

 

車内のラジオで松田聖子夏の扉が流れる。

 振られたのにも関わらずバイブスブチ上げの自分。

僕の夏はまだ終わっちゃいない!

 

それから一時間半くらいで同期Aの家の近くに着いた。

どのアパートだったっけな、、あー、通り過ぎたみたい。

仕方ない、あの空き地で切り返そうとハンドルを大きく右に切った。

 

ずぶんっ!

 

車が沼に落ちた。

 

「いや、まずなんで住宅街に沼があるんだよ。」

「大雨の影響で空き地が液状化してたのか」

 

と車が沼に落ちてるのに怖いくらい冷静に自己解決する僕。

 

とりあえず同期Aを助けに呼んだ。

 

現場に駆けつけたAはしこたま笑っている。

そりゃそうだ。

女子に振られた結果ビルだったり、線路に飛び込む人はいるけど

沼に飛び込んだヤツはおそらく僕くらいだろうから。

 

中世ヨーロッパだったら貴方が落とした車は金のフォルクスワーゲンですか?

銀のフォルクスワーゲンですか?

なんてことになってたかもしれないが、

僕のフォルクスワーゲンは残念ながら青いままだった。

 

そんなこんなで15分くらいでJAFを呼び、一時間後に無事救出。

4000円で済んでよかったねなんて、幸せのハードルが低い会話をしていた。 

 

その夜、同期Aと愚痴り合いながら夜を明かした。

「まぁもうそろそろいい事あるでしょ」

 

そんな事を語り合う飲み屋で

僕の横に座ったお嬢さんがワキガだった。

 

こうして台風21号とともに僕の夏も終わりを迎えた。

福井から金沢に戻る高速道路際に見える日本海

あの日本海の何パーセントかは僕の涙で出来てるのかな。

なんて身の毛がよだつ程ツマラナイことを考えていた。